他人
  





今まで、自分が生きているなんて、考えたことも無かった。
ただ、あの夏。
スザクの中で、確かに俺は生きていた。

なのに。

「スザク」
「何?」

「他人でいようって、アレ、取り消せよ」

生徒会室でその話を切り出したとき、スザクは俄かに動揺したように見えた。それでもそう見せまいと、張り詰める空気。
夏の空気を、生々しく感じる沈黙が訪れた。
耐えられないように、目をそらして、スザクは言葉を、慎重に紡ぎだす。

「僕が取り消したとしても、君が昔の君で無い限り、他人には変わりないよ」
「お前もな。昔とは違う」
「そうだね。同じ人間だとしても、何年か会わないだけでもう、何かが違ってしまうんだ」

生きてきた過程、行動、もしくは知識。
ほんの少し、違うだけで距離感を感じ、やがて他人としてすれ違っていく。

「結局は、生まれてきたときから、自分以外他人ってことだ」
「何か哀しいな」

本当はどうだって良いんだ。
他人だって言われたって良いんだ。

ただ、お前に他人扱いされるのが、生きているのを否定されているみたいで、痛いんだ。


「最後は、自分って事だな。スザク」
怖かった。ずっと。
他人の烙印を押された、あの日から。
「じゃあ、自分を信じて頑張ろうかな」

なぁ、どうして。
自分の信じる人と、他人以外で繋がれないんだ。
人は。 
 






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