交錯






「あのさぁ、シャーリー」


2月も半ばの昼下がり。
いつもの生徒会室で、他愛もないおしゃべりをしていたら、その人はこう言った。

「あんたさぁ、いい加減意地張ってないで、ルルーシュと仲直りしたら?」
「またその話ですかぁ?皆して、もうっ」

私の記憶から何故か抜け落ちている、クラスメイト。
ルルーシュ・ランペルージ。
私はほんとに覚えて無いって言うのに、何で信じてくれないのかしら。

「本当に知らないんですよ、あの人の事。あっちだって、ナリタで 逢ったとき知らん振りしてたし」
「ナリタ?」
「はい。何故か自分でも知らないうちにナリタにいて、そこで友達 を亡くしたんだって言ってましたよ」

同じクラス。
同じ生徒会員。
忘れるはずが無いのに、何で私はあの人の事を知らないの?

「解ったわ、シャーリー。とにかくちゃんと仕事はしてね」
「はぁーい」


***


「ルルーシュ」
自分でも、何で人にここまでしてあげているか、解らない。
自分の事で手一杯のはずなのに。

「何ですか。そんな真面目な顔して」
「聞きたいことがあったのよ」

冗談にしては、キツいと思っていた。
本人の前だけならまだしも、私たちの前でまで、そんな振りをすることは無いのに。

「シャーリーは、記憶をなくしているんでしょう?」


「そんなわけ無いでしょう?大体何でそんなことを」
「おかしいと思ってたのよ。冗談にしては過ぎるし、お父さんを亡くしたばかりの人間は、自分から誰かを遠ざけたりしないと思っ たから。
一人で考えたいとか、そういうんじゃない限りね。ましてや好きな人を」
「・・・」
「好きな人の記憶だから、無くしたんじゃないの?」


「・・・そうかもしれません」


「いつから?」
「察しの通り、シャーリーの父親が無くなってからですよ」
「何で黙ってたのよ」
「言えますか?彼女の前で、お前おかしいぞって」

情けなかった。
気付けなかった自分に対して、そして黙っていた彼に対して。
そこまで自分を追い込んだ、彼女に対して。


「だから、黙っていようと思ったんです。ジャーリーを傷つけないように」


だからこそ、ダメじゃない。
自分を追いこんで、一人で格好付けて。
「アンタって奴は、いつも一人で抱え込んじゃって」

人の事言えないか・・・。

「しょうがない、黙っていてあげるわよ」
「助かります」



――そのとき俺は、どんな顔だった?



***

安らげる場所。
呼吸できる場所。
皆自分から遠ざけて。

「一体何がしたいんだ。俺は」

そうしてやがて、行き場所をなくしていくのか。

コンコン。

そんなことを考えていて、ノックの音を聞き逃していたようだ。
我ながら繊細だな。

「誰だ」
「私」

聞き覚えのある声。
自分から遠ざけたはずの。
笑顔。
今、目の前にある。

「入っても良い?」
「・・・っあ、ああ」
「ごめんなさい、突然来ちゃって」
「別に。何の用?フェネットさん」
「他人行儀な呼び方はよして」

「は?」
何を言ってるんだ。俺たちは他人だろう。
そんな言葉たちを飲み込んで、話に耳を傾けた。
「知らないはず無いよね、同じクラスなんだし。生徒会の中で、あなたの事だけ知らないってのもおかしいじゃない?
ねぇ、私とあなた、本当は良く知っているもの同士なんじでしょ?」
「何を言っているんだ」
「とぼけないでよ。色々調べた。あなたの事。私が何で覚えていないのか不思議なくらい、接点が多すぎる」

まずいな。
もうギアスは使えない。
何かの拍子に思い出すかもしれない。
そのくらい、まだこの力について、知らないことが多すぎる。

「だから、これ」
「・・・何だ」
「見て解らない?チョコレート」

2月14日。
バレンタインデー。
そういえば今日だった。

「言っとくけど、本命チョコじゃないからね!義理よ義理!
今まで 忘れてごめんっていうのと、これからよろしくって事」
半ば押し付けられるような形で、それを受け取り、シャーリーは 俺に背を向けて言った。

「私ね、気づいたの。焦ること無いんだって。ゆっくり思い出せば 良いし、初めて友達になったときみたいな感じで、
また始めれば 良いんじゃないかって」

捨てたはずの笑顔。
また、俺の前で笑ってる。

「じゃあ」

走り去る彼女を見送りながら、俺は思い出していた。

あの時。ナリタで誓った。
来世にした約束。

  『・・・生まれ変わったら・・・』

彼女には、聞こえていたのだろうか。


「変わらないよ。お前は」





だけど。
昔に戻るには、遅すぎたか。












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