勤勉
  




「ルルーシュ、僕に勉強を教えてくれないか?」


スザクがそう言い出したのは、補修の終わった後だった。
教師たちに嫌味を言われ、しごかれるだけしごかれた後だというのに、なんて体力馬鹿なんだ。
「で、どこを教えて欲しいんだ?」と、テーブルに教科書を広げて言うと、スザクは歴史の教科書を指差した。
「歴史が嫌いだから、先に頼むよ」
「お前はどの教科も嫌いだろう?」
「よく解ってるね」
「当たり前だ。夏休み中に、嫌がるお前を机に縛り付けて勉強させたのは、誰だと思ってるんだ」
「・・・そんな昔のこと持ち出さなくても」
「仕返しだよ。この前の」
そう言ってやると、スザクは短い笑い声を上げる。
「だからって、今回も縛り付けられるのはごめんだ」
「その通り。さっさと片付けるぞ」
「賛成」

歴史は嘘吐きだ。
自分の国の武勇伝ばかり聞かせたがる。
そして、それは塗り替えられたり、装飾をされたりして、より良い形で次代へ受け継がれていくのだ。

「で、1192年の主な出来事は?」
「・・・ベルリンの壁崩壊」
「そんな訳があるか、良い国もなんもあったもんじゃない。鎌倉幕府だろがっ!!」
「今更、こんなことして意味があるのかな・・・」
「勉強が出来ない奴ほど、そう言うんだっ!!」
「いや、そうじゃなくてさ。エリア11の高等教育を受けているのは、大体ブリタニア人だろう?
一部の例外はあるけどさ、たとえば僕みたいにね。」
「まぁ、そうだな」
「なのに何で、敗戦国の歴史なん勉強するんだろう?」
「・・・敗戦国だからだろう。そうやって情けをかけて、懐の深さを見せびらかしているんだ」
「・・・そうかな?」
「じゃぁ、何なんだよ」
「例えば、そういう風にお互いを認めようとしているとか」
「詭弁だな。ブリタニアに、そんな優しさがあるわけ無い」
「でも、ブリタニア人にも良い人はたくさん居るよ。ユーフェミア様とか、セシルさんとか、ナナリーとか」
「出てくるのが女の名前ばかりだな」
「仕方ないじゃないか、女性に接する機会も多いんだから」
「じゃぁ、ブリタニア人は女性のみ、人間的に出来ているという訳か」
「そうじゃないよ、それに・・・」


―――君だって、ブリタニア人じゃないか。


そういわれた瞬間、目が覚めたような気がした。
俺はブリタニア人だ。
否定するつもりは無い。

でも。

決定的な違いを、突きつけられたような気がした。
俺はブリタニア人で、スザクは日本人なのだと。

「ルルーシュ?」
「・・・あっ、ごめん。どこだったかな次のページは」
「・・・?」


俺はブリタニア人だ。でもブリタニアを壊そうとしている。
矛盾している。
そんなはずは無い。
たとえ国自体に罪は無くとも、その上にあるものが罪ならば。

スザクは疲れたのか途中で寝息を立てて、そのままテーブルにしがみつくように眠っていた。
毛布を持ってきてかけてやると、何故かどっと疲れたような気がする。
「母さん」
俺は間違っていますか。
ただ、ナナリーに幸せであって欲しいだけ。
それだけなのに。
「だけど決めたんだ。そのためには何でもすると」

ごめん、スザク。
やはり、お前と別れてしまった瞬間から、俺たちは「別々」だったんだ。
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