千切り捨てたちょうちょの羽を
「この世界の動物って変なのばっかりだと思ってたけど、ちゃんとマトモなのあるじゃんっ」
隣の渋谷は、道端に咲く何の変哲もない花を見て言った。
よく見ると、そこには一匹の蝶がとまっていて、彼は「綺麗だなー」と、
呑気に感想を口にしている。
「蝶が、そんなに珍しい?あっちでもよく見た気がするんだけど」
「いや、そうじゃなくてさ。何ていうか…最近忙しくて疲れてたから、こういう光景をみると
和むなーって」
「…そう」
蝶ってそんなに綺麗なものだろうか?
たしかに、二枚の羽で羽ばたく姿には何か儚さを感じさせるが、
それが僕の中だと、とうてい「綺麗」には結びつかない。
だいたい、最近感受性に響くような「綺麗」なものを、見てない気がする。
たかが感受性といってもタイプが2つあって、
1つは「かたよりのある」タイプ、
そして「素直」なタイプ。
僕はかたよりのある方だと、我ながらちゃんと自覚していた。
興味がなければ、それは「どうでも良いもの」で、大切だと感じるものはほんの一握りで。
目の前に居る「彼」さえも、もしかしたらそんな一つになってしまうのではないか…と
たまに心配になる。
「僕はあまり、好きじゃないな。蝶」
「…は?」
「そういえば昔、色んな虫の羽をむしったことがあるな。羽アリ、トンボ、蝶…。
幼い子供の無邪気さも、時には恐ろしいものだよねぇ」
僕が呆れるような仕草で目を伏せると、やはり彼は心配したように「何言っちゃってんの
村田?」と声をかけてくる。
「冗談だよ、冗談」とだけ言葉を返して、僕は蝶の行方を見守った。
闇に、暁と夜を同時にこぼしたような色のそれは、二枚の羽をヒラヒラと堕として、果てる。
(あぁ、綺麗だな…。)
僕の感受性なんて、そんなものさ。
蝶は好きです。
だからこそ痛めつけてやりたくなります。(オイ)
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