想うだけで生きられるのなら楽だと思った。
『ポーン』という規則正しい音が、響いている。
「ヴォルフラム・・・?」
コンラートは見回りをしていた足を止めると、末弟はビクついて言った。
「・・・ユーリには言うなよ」
はいはい、とコンラートは微笑みを返した。
ヴォルフラムは、ボールとグローブを持って、泥だらけになっている。
よく見ると指先からは血が滲んでいた。
「あんまり無理するなよ」
「・・・五月蠅いっ」
彼は、自分が婚約者にないがしろにされているのが、悔しかったのだろう。
それで真夜中に、こうして練習しているのだ。
いかにも彼らしい。
「・・・ぼくが『きゃっちぼーる』を出来るようになれば、ユーリはぼくの事を好いてくれると思うか?」
コンラートは一瞬驚いて、言葉を口にする。
「そんなことしなくても、彼はお前のことが好きだと思うよ」
「・・・そうか、そうだろうな」
コンラートは見回りを続行する。
まだ音は、城内に響いていた。
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