hide-and-seek





今まで誰にも、本当のことを言えた記憶が無い。
小さい頃の母の裏切りを、まだ引きずっているからだろうか。

「ユーリ、あなたはわたしのことをとても嘘つきだと思っているね」
闇の中であろうと、彼の反応は解る。
おそらく視力のほとんどを失っているであろう彼は、一瞬肩を震わせて、それから頭で物を考えずにこう言うだろう。
「何で?」

とても素直な反応に、自然と笑いがこみ上げてくる。
「だって、あなたはわたしのことが嫌いだろう?」
「嫌いだから嘘つきっていうのは、辻褄が合っていないと思うよ」
「じゃあ、あなたは嘘つきなわたしが嫌いなんだ」
「・・・サラレギー」
「何だい?」


「どうしてお前はそんなに、嫌われたいんだ」


空気が震えて。
目のやり場に困ったけれど。
どうせ彼には見えていないし。
自分でさえ気づきたくなかったこと。
彼には解ってしまう。

「良い質問だね、ユーリ」
見えていない彼に精一杯の作り笑いをしてから、語りかけた。
「わたしはね、人に裏切られるのが怖いんだよ。わたしだけじゃない。
みんなそうだ。だから傷つけられる前に相手に嫌われて、信頼関係を築けないようにすればいい。そうしたら誰も傷つかないよね?」
「淋しいよ。そんなの」
「そうだね。でも裏切られる方がもっと淋しいよ。
あなたはそんなこと解らないだろうね。愛されて育ったから」

あなたは誰にだって愛されて、望まれて生まれてきたのだから。

「おれにだって、裏切られたことはあるよ」
だからそんなあなたが、
「でも」
何でだろう
「やっぱりお前のことは嫌いみたいだ」


こんなにもあなたが欲しかったのに。








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