祝・ユーリ陛下誕生日記念ss
「・・・やっぱりこうなるんだ」
目の前には誕生日仕様のケーキ。
何百人いるかわからない友好国の要人と、十貴族の面々。
今まで一般人として育ったおれには、いささか大がかりすぎると思うのだが。
「陛下、お誕生日おめでとうございます」
「・・・コンラッド、おれ、身内だけのこぢんまりとしたパーティーで良いって言ったよね?」
「すいません。ですが、こらも仕事だと思って我慢してください。ギュンターも張り切ってましたから」
「あぁ・・・そうか、あの人はおれさえ関わらなきゃ仕事のできる人だったね。何か申し訳ないなー」
「そんなことはありませんよ。さぁ陛下、あちらの方で」
と、コンラッドはリボンのついたナイフを、おれに握らせてこういった。
「ケーキ入刀を」
「にゅ・・・っ入刀!?」
ケーキ入刀って結婚式の定番のあれ?あれのことですか!?
「ケーキ入刀ってことは2人の初めての共同作業だよなっ!?
その場合おれは誰と・・・って、彼女いない歴イコール年齢のおれには、そんな相手に心当たりな
いっつーの!だいたいそれ、誕生日じゃなくて結婚式!!つーか誰情報!?もしかして眞魔国の
しきたりだったりするわけ!?」
「確か、大賢者じゃなかったか?」
長いつっこみを一通り言い終わったおれの横から、ヴォルフラムが口を挟んできた。
「ユーリの住む”ちきゅう”とやらの習慣に似せようと、大賢者の意見を参考にしたんだ」
「・・・やっぱり村田かよ」
「何だ、ケーキ入刀は結婚式でやるものなのか?」
「そうだよ」
「そうか・・・なら」
そう言ってヴォルフラムは、おれが握っているナイフをおれの手の上から包み込むように握った。
「今のうちに結婚式も済ませてしまおう。一石二鳥で嬉しいだろう、ユーリ」
「何ィっ!?嬉しくない嬉しくないっ!!ってか、日本のことわざなんか何処で憶えたんだよ!!」
「ユーリ、突然のことで戸惑うのはわかるが、素直が一番だぞ」
「自分に都合良く解釈するな〜っ!!」
そして、抵抗も虚しく、特大ケーキの前に立たされてしまったおれ。
「どうするおれ。ここで逃げてしまうのかおれ。でもそれは気が引けるしなー、原因はおれだし。ここ
は何とか穏便に・・・」
「ブツブツ言っていないでやるぞっ!!」
「うわあぁぁぁぁあぁっやめろヴォルフラム!!・・・って、あれ?」
「どうした」
「・・・動いてる」
「何が?」
「・・・ケーキが動いてる!!」
おれの叫びと同時に、、特大ケーキはもぞもぞと動き出した。
現実的に考えて、ケーキが動くはずはない。
だが、目の前のケーキはバランスを崩して、こちらに倒れようとしている。
「・・・うわぁあぁぁ!!」
「何でケーキが!!」
でもケーキは倒れてくる。
生クリームは床に飛び散って、苺は足下に転がり――
中から人が出てきたのだ。
「・・・人・・・?」
「・・・へ・・・へいか〜」
「ギュ・・・・ギュンター!?」
何と中から出てきたのは、超絶美形の王佐だった。
「何でケーキなんか中に入ってんだよ!!」
「何でと言われましても、陛下の国ではこれが普通なのでは?」
「・・・は?」
王佐は顔にまとわりつく生クリームに苦戦しつつ、こう告げた。
「猊下がおっしゃるには、陛下のお生まれになった土地では、思い人の誕生日にケーキの中に入
って食される前に――」
「あぁ、やっぱり村田か。もう良いよギュンターそれ以上言わなくて。それ全部ウソ」
「何と!!それでは私のしたことはっ」
「・・・無駄だね」
「あぁぁあぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!!!!」
そしていつものように、汁をまき散らして暴走しまくるのだった。遠くの方で「フォンクライスト郷が乱
心したぞー」と、誰かが助けを求める声がする。
「っにしても村田めっ。言いたい放題言ってトンズラしやがって!」
「ユーリ、ギュンターを止めなくて良いのか?」
「もう良いよ。いつものことだし」
そう、いつものことだ。
賑やかに、騒がしく、毎日は過ぎていくのである。
そしておれはそんな毎日を、結構気に入っていたりするんだ。
*おまけ*
みんなからもらったプレゼントを抱えて自室に戻ると、そこには何ともおぞましい光景が。
「ヴォルフ」
「あ、お帰りユーリ」
「ネグリジェは良いんだよ。もう諦めているから。でも」
「何だ」
「それは止めようよ」
フリル増量。賑やかさも増量。
そしてなんと言っても、小○幸子ばりの背中のイルミネーション。
襟はあのトカゲみたいで、おれより魔王らしいコスチューム。
「それはどうなの?」
「何を言っているんだ。これは・・・」
「当たり前だ」と言わんばかりに、ふん反り返って彼は言う。
「誕生日仕様じゃないか」
目の前がチカチカする。
これは、目の前の電飾のせいであってほしい。
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