新婚がしたいだけ









幼い頃から、自分は平凡な人生を生きるのだと思ってた。
公衆トイレから流されたりしなければ、おれは今頃、普通に人生を送って、将来は草野球を趣味にしながら職につき、可愛い彼女ができて後に結婚して、奥さんに見送られながら会社に行くささやかだけど、幸せな人生を送っていたのかもしれない。



そんなことを思ったのは、そんな夢を見たからだ。



隣で寝てるのは超可愛くても男だったけど。
「ぐぐぴーぐぐぴー」
「相変わらず、寝相と顔のギャップが激しすぎるよな」
隣で今にもベッドからずり落ちそうな美少年は、何の因果か婚約者になってしまったわがままプー。
「・・・せめて女の子だったら・・・」
コイツと結婚して、幸せな家庭を築きたいと思っただろうか。
「ちょっと待て!!おれおかしくない!?それじゃまるで・・・」
待て待て待て。口に出すのはよそう。コイツは男コイツは男、そんなこと思っちゃまずいって!!!

「でもなー」

あんなにまっすぐに好意を向けられたら、ぐらっとくるかも。
何せ相手は天使のごとき美少年なのだ、神々しい美しさに惑わされそうになったこともある。
ベッドに潜り込みながら、おれは理想の結婚生活について考えた。

(でも、相手がいないしな)

この歳で子持ちだし。早々見つからないだろうな。

それでも良いと思ってる。子供の成長を見守りながら、一生独り身の人生も悪くはないと。
「・・・これも五月蝿いだろうしな」
おれは、横の金髪をつまんで感慨にふけってみる。
おれが結婚したら、コイツは毎日殴りこんでくるんだろうなとか、何でコイツはそんなにおれにご執心なのだろうかとか、不思議とそんなことばっかり考えた。
自分が考えたことに不思議と恥ずかしくなって悶絶していると、
「おはようございます、陛下」
「陛下って呼ぶなよ、名付け親」
コンラッドがドアを開けて入ってきた。
彼と毎日、早朝ランニングをするのがおれの日課になっている。
迎えに来るついでに、彼の手にはきちんとたたまれた、メイドイン眞魔国のジャージも持ってきてくれたようだ。
「ありがと、すぐ行くよ」
おれはジャージに着替えて部屋を出て行こうとすると、ベッドから眠そうなヴォルフラムが、両目を擦りながら、いつもとは違う様子でこう言った。

「・・・ユーリ」
「おっ、何だヴォルフラム。お前も行く?早朝ランニング」

「・・・行ってらっしゃい・・・」

そう告げると、役目を終えた体はばたりとベッドに倒れこんだ。
「どうしたんだろ?いつもなら、文句言って付いてこようとするのに」
「・・・まぁ、あの子も大人になったんですよ」
実の兄がそう告げると、そそくさと部屋を先に出て行こうとした。
おれは何故か忍びなくて、そのまま熟睡したヴォルフラムに、毛布をかけてやりに戻る。

「・・・行ってきます」

こっちの夢がヴォルフラムにも伝染したのだろうか?



「何か今の、新婚っぽくない?」



疑問はすぐに脳の隅に追いやられたが、なんとなく楽しい気分だった。







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