妄想中毒注意報W







「何だって?」
オレの言葉に、かつての戦友は顔をしかめた。
「だーかーら、軍に復帰しないかって話」

ウェラー卿コンラートはわが国最高の武人にして人格者である。
かつては「ルッテンベルクの獅子」と呼ばれ、隊を率いていた軍人で、オレの直属の上司でもあり幼馴染でもある、
英雄的存在だった男。

だが、彼は20年前、先の大戦で授かった十貴族と同等の位を返し、軍籍を退いた。
それからの彼は新魔王陛下のために日々を過ごしている。
それでも国のために働いていることは間違いないのだが、
今の彼の忠誠は、たった一人の王にしか向けられていないのだろう。
むしろ、それが彼を生かしているようにも見える。
何かに一途に尽くせる所は、彼の兄上とそっくりだ。


「今でもお前の下で働きたいって奴が後を絶たないってのは知ってるだろう?知らないとは言わせないぜ」
「聞いている」
「・・・だったら」

「でも」

オレの言葉をさえぎるようにすばやく、彼は言葉をつなげた。

「今は陛下をお守りすることのほうが大事なんだ」


・・・やっぱりな。


「陛下陛下って、そんなんじゃグリ江嫉妬しちゃうわーん。グリ江も諜報員なんて辞めちゃおうかしら」
「ヨザック!!」
「冗談だよ、じょ・う・だ・んー」
オレはおどけて見せたものの、半分くらい本気だったことを彼は知らない。

「まぁ、アンタがそうしたいってんなら、オレは何も言わないけどさー」

立ち上がって、彼に背を向けて歩き去ろうとしながら、オレは言った。


「お前を必要としているのは、奴らだけじゃないんだぜー」

手をひらひらと振ってやると、その本当の意味が理解ででたのか、
笑いをこらえたような声で、ウェラー卿は告げる。

「あぁ、わかっているよ」

ヴァン・ダー・ビーアの時から数えてこれで二回目か。
だったら何を言っても無駄だろう。
あいつはああ見えて頑固なのだ。

「まぁ、待ってみますか」

待ってやるさ、50年でも、100年だって。
お前が帰ってくるんならな。



だったら何のために、あの時お前に肩を貸したというんだ。







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