呟いたその名は







『――おれはまだ帰りたくないんだっ!!』

 自分の中でエコーがかかり、何度も何度も・・・響いてる。

 帰りたくないとだだをこねたら海へドボン。
 慌てて海へ飛び込んだらしいムラケンこと村田健と共に
 短いスタツアを終えてコッチへ帰ってきたのは、三時間前。

 その時に浮かんできた、茶色の眸。

 優しい色だと思った。
 そこに銀が散って、地に降った雪のようだとも。

 濃紺の海を渡る中、ずっと・・・眸がコッチを見ていた。

 眸だけ。

 どうしてだろう?と思った。
 何故、他のパーツが浮かんでこないのだろう。
 何で・・・眸だけが・・・――。

「いつも笑っててくれたじゃないか」

 笑って、おれの名を呼んで。
 まだタコの残る厚い皮の指で、おれの手に剣を握らせて。
 その唇で終始、その名を紡いで。

 笑って。
 笑って。

 精神安定剤みたいに。
 おれのそばで、笑っていたじゃないか。

 自分はいつからこんなに、人に執着するようになったのだろう。
 居なくなってただ淋しいという想いもあるけれど。
 こんなに、名前を叫びたいなんて。バカみたいで。

 監督ぶん殴って、やめた野球みたいに。
 ただ哀しくて、
 淋しくて、
 悔しくて、

 愛しい。

 ごった煮になった、ただ、漂う気持ちの中で
 ゆらゆらと、海月のように、泳いでいる。そんな想い。

 あぁ、頭冷えてきて、やっとまともなコト言えるかなと
 思ったそんなトキ、

「しーぶーやーっ」

 ムラケンが、右手をブンブンふって呼んでいる。
 オイオイ、間接外れんぞ?と思いながら
 うすら笑いを浮かべて、俺は走った。

「渋谷〜、飼い犬に逃げられた飼い主気味で
 ハートブレイクなのはわかるケドさー。
 そんなんじゃ草野球の費用稼げないわよん。
 ビシッバシっはたらかないっと!」
「へいへい・・・わかってるよ」

 そして痛いところを突いてくれてありがとう友よ。

「もしかして、本当のコト言われて怒ってる?」
「怒ってなんか・・・ねぇよ」

 多分おれは、かなり力なく言い捨てた・・・と思う。

「まぁ、失恋中の友達をいたわってやってる(つもりの)
 僕の気持ちも考えてよ。
 そんなんじゃお母さん心配で目を離せないじゃな〜い」

 だれがお母さんじゃい。

「あのな〜、おれの母さんはそんな金パでカラコンで
 きわどいビキニをはいたりするような奴じゃないって!」
「そうだねっ。僕は君の母親にはなれないさ」

 ムラケンはそこだけキツく発音した。

「"保護者"にも」

「・・・っ・・・あ」

 ムラケンは、おれの考えるコトが解ったのか?
 おれが何を考えて、思い浮かべて、口にしようとしているコトが、
 手に取るように解るんじゃないのか?

 顔に出やすい、バカ正直な野球小僧の考えくらい。

「・・・っ村田・・・」
「ねぇ、渋谷の今一番欲しいものって何?」
「またいきなり・・・っ」
「まじめに答えてよ?野球選手のサインとかサインとかサインとか?」
「おれがただのベースボールバカみたいじゃんかっ」
「じゃあ何だよ?」

「・・・・・・」

 欲しいもの。

 何だろうな、と考えて浮かんだモノは


 あの茶色だった、と思う。


 あたかも降るように、自然に心へおちてくる。
 認めたくなかったけど。
 
「僕はただ・・・」
「・・・」

「君が海に飛び込むんじゃないかって、気が気じゃないだけだよ」

 コンタクトの奥の黒い眸が、その時だけ、
 どよめくように、濁って。
 おれが、その中に映ってる。そんな気がした。

「大丈夫だって」


 おれはそんなコトしない。

 何も考えてない訳じゃない。
 何も考えれないだけで。

 例え、この海に飛び込んで行ったとしても・・・――

 ――おれの「モノ」は、おれを待ってはいない。










解りづらくてスミマセン;
アニメ版だからわかんないかも。
秘めた想いがあるってコトで。

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