花井梓誕生日 SS



(花井、二年生になっての誕生日のつもり)





「なぁ、はーなーいー」
「何だよ、耳元で騒ぐんじゃねぇようるせーだろっ」
帰り支度をするオレにむかって、田島は俺の肩を揺 らしながら言った。


「今、何がほしい?」


「は?」
思いもよらぬことを聞かれ、次の言葉が出てこない オレに、田島はこう理由を付け加えた。
「だって今日お前誕生日だろ」
「え、今日何日?」
「4月28日」
「・・・忘れてた」
「だろうと思った」
田島はベンチに座りこんで、スポーツドリンクの残り を飲み干していると、他の奴らにも会話が聞こえて いたのか、次々とおめでとうラッシュが続いた。
「あ、花井今日誕生日なんだ。おめでと」
「ありがと、泉」
「花井くん、おめ・・・おめっ!!」
「あー、ありがと三橋」
「てか、田島。よく覚えてたな」
「阿部、チームメイトの誕生日くらい覚えておけよな。 巣山が4月6日だろ、三橋が5月17日でその次が」
「あーわかったわかったっ。てかその記憶力を別のと ころに使えねーのかよ」
「悪かったな。んで、何がほしい?」
「あ、オレ?」
「花井意外に誰がいるんだよ」

そういわれて、ほしいものを思い描いてみたが、これ というものが見つからない。強いて言うなら野球関
係のものだろうが、それをチームメイトに頼むには、 あまりにも高価すぎる。

「うーん、これと言ってないな」
「えーつまんねー」
「じゃぁ、次の試合で一点入れてくれ」
「それなら大丈夫!おーい皆!!次の試合で1人1 点ずつ花井にプレゼントしようぜ!!」


カキーン。


そこで場面が試合会場に切り替わった。

「おーい花井。勝ったぞー」
「はっ!?」
「皆1点ずつ入れてくれたぞ」
「嘘っ!」
「わーい次は甲子園だ!!」



ちょっと待て!今まで何試合やった!?
てか今何月だよ!!
「花井、どうした?」「花井くん?」「おいしっかりしろよ 」
頭を抱えながら困惑するオレに向かって、気遣いの 言葉をかけてくれるが、それが逆に五月蠅くて怒鳴 りつけようと顔を上げた時、



「あーっ、てめーらうるせーっ!!!!」



という自分の叫び声で目が覚めた。



「はぁっ・・・はあっ」

何だよ、夢?

安堵のため息が漏れたと同時に、母親が無断でドア を開け放った。
「お兄ちゃん五月蠅いよー。早く起きなさい」
「・・・わかってるよ!勝手に入ってくんなっ!」
「あ、それと」と付け加えて、」さらにこう告げられる。

「17歳、おめでとう」

拍子抜けしたオレは、とりあえずもごもごとお礼の言 葉を呟いた。
誕生日は本当の事らしい。
「キャプテンが遅刻するんじゃないよー」
「いちいちうるせぇっ」
朝食の支度途中の母親を追い出してから、自分もそ ろそろ出かける準備をしなくてはと思い立ち、早々に ベッドを抜け出した。

気付くと自分はもう校門の前に立っていて、
グラウンドに顔を出すと見慣れたチームメイトの姿が 。
「おー花井、おっはよーっ」
「はよー」
田島は家が近い分、自分よりも遅く起きてたっぷり 睡眠をとったせいか、眠気など感じさせない溌剌さだ 。他の奴らも、同じように挨拶をしてきて、オレも同じ ように返す。

「ところでさー、花井」
「ん、何だよ」


練習着に着替えようとしたオレの背後で、田島は呑
気にこう言った。


「お前、今日誕生日だろ。何欲しい?」

えっ。

えもいわれぬ既視感がオレの頭をよぎったのは、こ こにいる奴らにはわかりもしないだろう。




これは夢ですか?それとも、都合のいい現実ですか ?







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